アルギン酸とは

アルギン酸の構造と特性1)
1. アルギン酸の構造について
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(ア)アルギン酸は海藻(褐藻類)の藻体に含まれる細胞間多糖です。海藻(Algae)から得られる酸性物質ということで、Alginic acid(Alginate)と名づけられました。アルギン酸は2種類のウロン酸(D-マンヌロン酸とL-グルロン酸)(図 1)が直鎖状に重合した高分子多糖です。分子量は数千から数十万あり、途中から分岐する側鎖を持たないシンプルな構造をしています。
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図 1 ウロン酸構造
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(イ)構成するウロン酸は、1ユニットに1つずつイオン交換性の高いカルボキシル基を備えています。酸性下ではカルボキシル基が遊離酸(-COOH)の形をとっており、この状態のものを特に「アルギン酸」と呼びます。
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(ウ)水中に分散したアルギン酸にアルカリを加えると、徐々に膨潤をはじめます。ウロン酸のカルボキシル基はアルカリ金属イオンと塩を作り、例えば、ナトリウムやカリウムによって中和されたものを「アルギン酸ナトリウム」あるいは、「アルギン酸カリウム」と呼んでいます。アルギン酸ナトリウムは図2に表す化学式を呈しています。
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図 2 アルギン酸ナトリウム 化学式
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2. アルギン酸の特性について
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(ア)アルギン酸と水を混合すると、なめらかな粘りのあるコロイド溶液となります。その基本構造に変化がないにも関わらず、アルギン酸の分子量 が大きいと水溶液の粘性が高くなり、分子中のカルボキシル基と対をなす陽イオンの種類によってその性質が変化します(図3)。
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(イ)アルギン酸そのものは水に溶解しない為、食品の増粘剤、ゲル化剤 、安定剤として古くからアルギン酸ナトリウム塩が利用されており、一般的にアルギン酸と言うと、アルギン酸ナトリウムを指していることが多いと考えられます。
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(ウ)アルギン酸はカルシウムイオン等の多価イオンと塩を形成する特性を持っています。カルシウムイオンはアルギン酸と親和性の高い多価イオンであることが知られており、複数のカルボキシル基がカルシウムイオンにより架橋が形成されることで、分子運動に制限がかかり、アルギン酸カルシウムは水に溶けないゲル状態を呈することになります。
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図 3 アルギン酸の性質
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3. アルギン酸ゲルについて
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(ア)アルギン酸は2価の陽イオンであるカルシウムイオンを添加すると、アルギン酸分子とカルシウムイオン が塩を形成し「Egg box junction」と呼ばれる架橋構造を呈します。この反応が水溶液の至るところで起こり不溶性のゲルを可逆的に形成します。 この架橋構造の形成には、主にグルロン酸が関与します(図4)。
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(イ)アルギン酸ゲルの硬さは、アルギン酸を構成するウロン酸の比率や分子量によって変化します(図5)。例えば、グルロン酸比率が高いアルギン酸ではカルシウムイオンとの反応性が高く、生成されたゲルは架橋点も多くなることから硬くなり、マンヌロン酸比率が高いアルギン酸ゲルは柔らかいゲルとなります。また、分子量が大きくなると、アルギン酸はカルシウムイオンとの反応性が高くなり、生成したゲルは硬くなります。
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(ウ)多くの多糖類は、加熱・冷却によって溶解、ゲル化します。一方、アルギン酸は、イオン交換反応によって水溶液からゲル状態へ物性を変化させ 、溶解にもゲル化にも温度が関与しません。アルギン酸の一価金属塩は冷水にも素早く溶解し、多価金属塩は高温でも溶けない性質を持ちます。
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図 4 ゲル化の仕組み
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図 5 ゲルの性質
4. アルギン酸の応用
アルギン酸とその塩類は様々な性質の違いを組み合わせながら、食品、医薬品をはじめ繊維、製紙、水産養殖など、幅広い分野で活発に利用されています。
そして、持田製薬株式会社は、膝または肘関節軟骨の修復材として、アルギン酸の持つ特性を活かしたモチジェル🄬を開発、承認の取得をいたしました。現在も、このバイオマテリアルの特徴を活かしたユニークな医療機器の研究、開発を進めております。
1)宮島 千尋: アルギン酸の概要と応用: 繊維と工業2009;65(12):444-448